†Orion†


「……今はいい。そっとしといてくれ」



力ない声で俺が断ると、弘美はそれ以上なにも訊かなかった。




大嫌いな、地獄の夏休み。

俺と優菜さんは、数回、顔を合わせただけだった。

休憩が一緒になることもなく、ただ、仕事上の必要最低限の会話しかなかった。



時折、デシャップ越しに彼女を見つめた。

あの日の泣き顔が幻だったかのように、彼女は眩しいほどの笑顔を振りまいていた。



……あぁ、これが本来の彼女の姿なんだ。

俺の身勝手な行動で、彼女の笑顔を奪い、泣かせてしまった。

苦しい思いを抱えていたのは、俺だけじゃなかったんだ。



そして、ふと思う。

いったい、彼女はいつから俺のことを……?


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