†Orion†


「奈緒とさくらのことを一番に考えてやらないとな……」



言って、浩平さんは、それまで箸で弄んでいた冷めた唐揚を口に入れた。



以前、浩平さんの話題に触れると、優菜さんは重い表情を浮かべた。

その意味を、こんなかたちで知るなんて夢にも思わなかった。



他の人を思い続ける浩平さんのそばにいて、優菜さんはどれほど辛い思いをしていたんだろう。

俺を好きだと言った優菜さん。

それは、寂しさが招いた、思い違いの気持ちなんじゃないのか?



――俺は、なにやっているんだろう。

奈緒ちゃんたちのためとはいえ、優菜さん夫婦の仲の修復に手を貸すなんて。



一瞬だけ、もう一人の俺が囁いた。


“優菜さんを奪えよ”と。


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