†Orion†


「――優菜さん?」



俺が問いかけると、電話の相手は少し間を置いてから「うん」と返事をした。


自然に口からこぼれた“優菜さん”という呼び方。

“杉浦さん”と呼ぶことを徹底していたはずなのに、やっぱり心は正直だ。



『いま、だいじょうぶ?』


「……あ、はい。大丈夫です」


『……今日の夜、なにか予定ある?』


「夜……ですか? 何もありませんけど」


『話があるの。今日の夜、うちに来てくれないかな』



思いもしなかった優菜さんからの誘い。



二年前の、二人で手を繋いだあの冬の夜。

優菜さんが“ありがとう”と言ったのは、別れの言葉だと思っていたから。



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