紅き天
「もう、俺いじける。」



言い方があまりにも子供っぽくて、静乃は吹き出した。



「なんで笑うよ…。」


「可愛いんだもの。」



本当に、カッコいいけど、可愛い所も持ち合わせている。



見ていて楽しいのなんの。



「まあ、謝ったところで帰りますか。」


「えっ、もう?」



立ち上がった静乃を見上げ、疾風は残念そうな顔をした。



「うん、私も店の準備があるし。
朝早くからゴメンね。」



座敷をあとにすると、疾風もついてきた。



「外まで送る。」


「ありがとう。」



とか言っているうちにもう店の外に出てしまった。



「じゃあ帰るわ。」


「ああ。
また行くよ。」



ニッコリ笑って頭を撫でられ、静乃は一層疾風と別れるのが寂しくなった。



「疾風…。」



通りに人がいないのを見計らって、静乃は自分から疾風に口付けた。



背が高い疾風の唇に届かせるのは大変で、精一杯背伸びをしたので触れ合ったのは一瞬だ。



「可愛いぞ阿呆。」



予想どおり、期待通りに疾風の首が下がって自分に合わせてくれた。



そのまま疾風の後頭部に手を回し、唇を受け入れた。



「じゃあ、行け。」


「うん、またね。」



名残惜しいが手を離して、静乃は振り返り振り返り呉服屋に入って行った。



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