紅き天
「それを具体的に考えるのだ馬鹿者が。」



反射的に疾風は謝ってしまった。



待てよ、なんで謝ってるんだ俺。



情けないようななんというか。



疾風は密かにため息をついた。



「とにかく、先手必勝。
今晩実行だな。」



なんだか急に輝き出した基子を少し引いて見つめ、疾風は機械のように何度も頷いた。



「静乃には俺のこと話して手伝ってもらおう。」


「それは駄目だ。」


「なんで?」


「動揺して使い物にならん。
あの子はまだ未熟で強くない。
足手纏いはいらん。」



普段、静乃を可愛がっているのに今は腫れ物のように扱っている。



疾風は心底驚いた。



庇っているような感じではないし…どうしたんだろう。 



基子の細かい指示を聞きながら、疾風はそんな事を考えていた。



「今夜決行だ。
気持ちを入れ換えてしっかりやれ。」



伝蔵のことでとやかく言っている暇はなく、疾風は忙しさに揉まれ、だんだん伝蔵の死を受け入れることが出来た。



それはなんだか変な感覚だった。



宗治の時のように悲しんだときもあったのに、そのギャップに恐怖を覚えた。



夜の大仕事に備え、布団に寝転びながら、疾風は宗治と伝蔵に心の中で拝んだ。



< 219 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop