パリ・ローマ幻想紀行
恵美さんのこの言葉に、二人は何も言うまいとぐっとこらえて、顔を見合わせただけである。そして、地下鉄に乗ってホテルへと向かった。
 ホテルの前には、既にバスが停まっており、朝部屋の前に出しておいた荷物が、バスの床下に積み込まれていた。ガイドさんは、伊沙子さんを確認し、そして全員に告げる。
「皆さん、今一度、自分の荷物を確認してください」
何故か、急にどしゃ降りの雨が降ってきた。伊沙子さんは、荷物の確認を終えて、私の隣りの座席に戻ってきた。どうやら無事に終わったようである。
「これから、シャルル・ドゴール空港に向かいます。旅行はどうでしたか?投げられた子供を受け取った人は居なかったようですね。幸いにしてトラブルは一つもなかったようです」
 添乗員さんのこの言葉を聞いて、旅行の最初を思い出し、そして旅行の終わりを実感した。私は過去を辿り、伊沙子さんは土産物の配り先を頭に描いている。空港での待ち時間に、伊沙子さんと恵美さんは、あちこちの店に顔を出していた。私はこれらの様子をビデオカメラに収めた。一時間のビデオテープで、後十分ぐらいは残っていた。残りはパリ上空の最後のシーンである。これで丁度、一時間のテープにまとめることができる。
 帰りの飛行機も、私の座席は窓際であった。飛行機はぐんぐん加速し、車輪の振動が体に伝わり、地面は速いスピードで流れてゆく。パリの地面を離れる瞬間だ。体がふわりと浮き上がり、下界に黒くうねったセーヌ川が見える。飛行機は高度を上げてセーヌ川が小さくなり、厚い雲の中にパリが消えていった。
 さようなら、ラオコーン、さようなら、ミケランジェロ、さようなら、ダビンチ、さようなら、ゴーガン、ゴーガン、さようなら。
(完)
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