ひまわり


「――やりたいよ」
 

しばらくの沈黙の後、恭平はゆっくりと息を吐きながら声を出した。
 

あたしはただ、恭平の背中を見つめる。


「本当は、また野球やりてぇ」
 

恭平は俯くと、手にしていたおもちゃを指先でくるくる回した。


「そのグローブ、親父に教わってた時のやつ。
何度も捨てようと思ったけど、出来なかった」

「………」

「せめて、思い出だけでもと思って」
 

なんで……?


喉まで出かけた言葉が、逆走していく。


「出来ねぇよ……」

「………」

「俺、ここに来てから、みんなを守るって決めたんだ。
その為には、何かを捨てなきゃなんねぇだろ?」

「……そんな」

「野球やったら、何かと大ちゃんに負担がかかるし、あいつらの面倒も見れなくなる」

 
恭平は、くるりと振り返り悲しげに微笑んだ。


「だから、できねぇよ――」
 

だけど、彼の目は強く決心しているように見えた。
 

大事な家族を守るのが、今の俺の生き甲斐だから。


と、答える彼が大人に見えて、とても同い歳の男の子だとは思えなかった。
 

恭平は強い、というか、優しすぎる。
 


いつだって、考えるのは相手の気持ち優先なんだから――。



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