時計塔の鬼


――グサリ…
――グサリ…


日本刀のような鋭い刃物で切り付けられたかのよう。


“結婚適齢期”

“子供”


“そんなの、どうだっていい”とは、さすがに言えなかった。

最近は親と顔をあわす度に見合い話を持ち掛けられる。

いっそ、シュウのことを話してしまおうかとも思ったけれど、それもなんとか堪えた。

もし教えてしまったら、何を言われるのかわかったもんじゃない。


“子供”


……幼い頃は、自分の子供と幸せに暮らすことを夢見たりもした。

でも、それとシュウとでは、比べるまでもない。

天秤になんか乗せなくても、すぐにわかる。

私は、シュウが大事。

鬼との間に子供なんて生まれるの?

という自問自答はひとまず置いておくことにして。



結局今のところ、切れてしまったのはこの時だけだけど

嫌味を言われるのは一回や二回では無かった。



三組については、ある程度は言われても仕方がないと思ってる。

けれど、三組の面々が悪く言われるのは……やっぱり悔しい。

みんな、いい子たちばかりなのだ。

多少元気のありすぎるきらいはあるけれど、みんな、大事な生徒なのだ。



「じゃ、授業するから」



そう宣言してやっと落ち着いたクラスの顔触れを見渡す。

名字なら全部言えるようになったものの、未だに下の名前まではわからない子の方が多い。

微かに吐息をつき、心で呟いた。



“疲れた”と。


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