時計塔の鬼


夕枝は今、社会人という括りの中にいる。

責任や義務などといったやらなきゃならないこともある。

夕枝には夕枝の事情があるんだ。

それを、俺が妨害するわけにはいかない。



……俺も、そんなことぐらい、わかってる。

ちゃんとわかってるんだ。



だから――。

『ごめんね……』なんて、言わないでほしい。

でないと……、我慢できなくなっちまうだろう?

自分の思ってることを全部吐き出して、我が儘で夕枝を縛っちまうだろう?

我が儘が叶えられるってことは必ずしも幸せってことじゃない。

俺のエゴで夕枝を苦しめるのだけは嫌だ。

今さら、夕枝を手放すことなんて俺には出来やしないんだ。

俺はこの塔に居る時の夕枝にしか関われないが……。



もし……、夕枝に嫌われるなんてことがあったら。

夕枝が塔に寄り付かないなんてことになったら。

俺は、自分がどうなってしまうのか、想像もつかない。



ただわかることは……俺の精神・心は、簡単にボロボロと崩れ去って俺はただの人形となってしまうだろうってことだけだ。

それほど入れ込んでいることに、馬鹿だと嘲り笑うヤツも、居るのかもしれない。

だが、俺はシアワセなんだ。

なら、その言葉一つで、俺の世界は白く救われるんだ。



だから……、夕枝、謝罪の言葉なんか言うな。

我慢くらい、いくらだってする。


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