時計塔の鬼


いきなりの惚気に、傍聴者の私たちは目を丸くさせ、口が空いてしまった。

周りを見て、間抜けな顔だな、と思ったけれど、私もまたその間抜けな顔をさらしているひとりなのだと思うと、少し凹んだ。



「で、また転勤で東京に来たってわけ! わかった?」


「わかるかっ!」


「わかるわけないでしょっ!」



シュウと歩美の声が重なった。

突っ込むことを先にやられてしまったので、私は驚くことしかできない。

対して、突っ込まれたさくらさんは、笑っていた。



夜の風が吹いて、空気を揺らす。

どこからか、名前も知らない鳥の鳴き声が聞こえた。

湿気を含んでいる生暖かい風のにおいが、今を知らせる。



もう、時は夜に入っている。



「お姉ちゃん、あんな説明でわかるわけないでしょう!?」


「ちょー、歩美少しは小さく喋ってぇや。耳に響くねんて」


「二人とも大差ねぇんだからギャンギャン騒ぐな!」


「シュウ、それはうちに対してすごい失礼やで!?」


「なんでそんなに口が悪いのよー! 無口っぽい見た目と違うじゃない!」


「んなもん知るか!」



私だけが世界の端っこにポツンといて、みんなはその反対側の端っこにいるみたいだ。

蚊帳の外にいる気が、秒刻みで大きくなる。

仲間外れというわけではないけれど、この中でさくらさんを直接知らないのは私だけだったからだろうか。

話に入れないというのは、すごく寂しい。


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