時計塔の鬼
「ったく、シュウはそんなに寂しいん?」
「誰もそんなことは言ってねぇ」
「しゃーないから、うちがハグしたげるわ!」
誰もそんなことを言っていない。
けれど、今のさくらさんは、どこか陽気で嬉しそうで、口を挟むことは気が咎めた。
「せーのっっと!」
「うぉっ」
鈍い音がして、さくらさんがシュウに飛び掛る形になった。
さくらさんを受け止めたシュウは、なぜか目を大きく見開いて、フッと、蝋燭の火が風によって掻き消えるように、目を閉じた。
コンクリートの床に、シュウの体が大きな音を立てて、転がった。
一度跳ねたシュウの身体は、再び跳ねることはなく、コンクリートの上に横たわっている。
「え・・・・・・シュ、ウ?」
シュウは気を失っていた。
さくらさんが飛びついたせいではないのだろう。
けれど、歩美もみかんちゃんもさくらさん自身も、そして、私も。
その場に居た全員が、シュウの元へ駆け寄り、体を揺らしたり、反応を確かめた。
けれども、シュウが目覚める気配は……なかった。
この後の出来事や、シュウ自身が後に語ったことは……正しく奇跡のようでありながら、本当に現実として起こったこと。
時計塔の謎は、過去から今に。
そして、未来へ。