時計塔の鬼


「一樹、二葉、三実……、またそんな話題を。今度は誰から聞いて来たんだ?」


『クラスの友達!』


「はぁ……」


「お帰りなさい、秀。今日は私の方が早かったみたいね?」


「ただいま、夕枝」



一足早く帰っていた私に鞄を預け、シュウはネクタイを引っ張ってシャツのボタンを二つ外した。

途端に、エリートサラリーマンから、何年経っても麗しいままの美貌の男に変貌する。

年をとってもこんなに奇麗な自分の亭主を見て、少しだけ恨めしくなった。



「あー! 母さん、俺お腹減った!」


「いつきもー!」


「みみもー!」


「ふたばもー!」


「こら、二葉は二回言ったでしょ」


「う、だって~」


「だって~じゃないの。さ、三人とも早く手洗ってきなさい」


『は~い!』



元気よく合唱して、我先にと洗面所までダッシュする三つ子。

転ばないといいのだけれど……。

そんな心配をよそに、子供たちはキャーキャー騒ぎながらはしゃいだ声を上げていた。


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