キミノタメノアイノウタ

……駅前は帰宅の時間のためか人で溢れかえっていた。

(どこにいるんだ?)

突然降った雪のせいで電車が運休になったのか、タクシー待ちの行列があちこちで出来ている。

俺は歌声を頼りに目的の人物を探し続けた。

駅前の広場には歌っている奇特な人間はいなかった。

(気のせいだったのか?)

あちこち探し回って諦めかけたその時。

……俺の耳ははっきりと歌声を捉えた。

音に導かれるようにふらふらと歩き出す。

そいつは屋根つきの歩道橋であぐらをかいて座っていた。

この雪の中、立ち止まる人なんているはずもないのに。

寒さのせいで鼻の頭を真っ赤にして。

吐く息は真っ白になっていて。

ギターを弾く指は凍えていた。

それでもそいつは歌っていた。

……楽しそうに。

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