夏海(15)~ポケットに入れてるだけの電話が勝手に電話することってあるよねー

秋梨様のカメラ


相手に生じた隙を生かさなくては一流のグラップラーとは言えない。

私はソファから飛び降り、ガラステーブルに足を乗せた。

すかさずダッシュ。

一歩目で加速。二歩目で最高速。

三歩目は、前傾姿勢で歌っている秋の背中へと。

ぐえ、と蛙の潰れるような声を出し、それでもマイクを離さない彼を踏み台に、私は飛んだ。

自分より確実に強い相手を倒す時に有効な手、それは奇襲。

特に、魅せ技が主なプロレス技は、奇抜な技が多い。

秋を踏み台にした私は、天井スレスレのところを舞っていた。

唖然としている新日本プロレスシャツ男の顔面めがけて、私はとびかかる。

体当たりでも来ると考えただろうか、甘い。

そのままの勢い、私は男の頭の両脇へ両足を差し込んだ。

ちょうど、肩車を前方からやるとこんな感じになるだろう、という状態だ。

当然、バランスは悪い。

飛びかかられた男は、フラフラと後ろに後退するが、バランスを取ろうと今度は前へ歩を進めた。

重心は、当然男の前方に置かれる。

そのタイミングを逃さない。

フッと腹筋に力を入れ、私は体を丸め込んだ。

鼻先すれすれにまで男の顔が近付く。

はっ、ブサイク。

ニッと笑ってやると、私は即座に彼の顔から離れるように、体をえびぞりに反らせた。

さながらばね仕掛けのおもちゃのように、勢いよく反ってみせる。

視界がぐるんと回転。

あぁ、逆上がりってこんな感じだったっけ?

あいもかわらず熱唱している秋を逆さまに見ながら、私は下半身を丸めこむよう腹筋に更に力を入れる。

挟み込んだ両足は男の頭をがっちりと固定。

バランスを崩していた男は、当然私の回転に引きずり込まれる。

そのまま私とともに回り、そして。

頭から落下へと至る。

フランケンシュタイナー。

プロレスにある魅せ技の一つ。

自分の全体重にプラスして、相手の体重もかかり、更に遠心力が乗算。

その全てが頭へと集中する、恐ろしい技。

本来ならかけにくいこの技も、相手の力を利用すればこの通り。

しかし。
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