夏海(15)~ポケットに入れてるだけの電話が勝手に電話することってあるよねー

源平桃様のカメラ

 私がいる。

 秋がいる。

 薄暗い橙の中を浮遊するソファは、ガラステーブルをかすめながら天井を駆け抜け、前傾姿勢で熱唱する橙の背中に着地した瞬間に宙を舞う、宙を舞う、宙を舞うことが静止したまま、ぐるりぐるりと他が回っていく、回っていく一つの橙を軸にしながら、ゆるやかに這うように染み出た橙は水平な濃淡を映して回る時間に吸い寄せられて、斑な円を描いて戻った時間は一瞬を手に入れ、両足は直ぐさま前方の橙に溶け出したカラオケルームの天井は低いから、長い髪の毛で撫でながら橙を通り越すと、目前に音もなくほどけて広がった重心を前にしながら、踏ん張るようにしていても、橙は一歩ずつ後退していく髪の毛を両手で払いのけた反動を肥大させて、絡みついた全体重を地面へ落とした照明の隅々に薄い橙が飛び散って一気に反り上がる天井が見える。

 見える逆さまに。

 逆さまに流れる。

 流れるすべてが。

 すべてが重力と融合した時、息を殺して腹を力んだ爪先が床に触れる瞬間――、

 おもいっきり両足で掴んだ橙を地面へ投げた。

 その時の遠心力は円弧の切れ端――小さな弧状の三日月だった。それも絵筆を走らせるように滑らかな橙は床を衝くよりも先に、ガラステーブルと交錯して生まれた衝撃と、本来の衝撃を相殺する形で無限の加速を殺した。

 死んだ体勢を保ちながらも渾身の力で、砕け散るガラステーブルと舞いながら、また橙を地面に投げると、足の力だけで強引に飛び散った。
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