男前な彼女




「か、上牧……?」




玄関のドアの鍵を閉めるなり、上牧は掴んだ腕を引き寄せ、あたしを抱き締めた。




あたしの肩に額を乗せて、ゆっくりと呼吸を繰り返す。










「おせぇよ…バーカ…」





やっと聞けた上牧の声は、やはり弱々しくて。








「…ホント、ごめん」








あたしは謝るしか出来ない。













「……なーんてな」



「……え?」



「嘘だよっ!騙されたかっ!?」



「…はい?」



「俺がこんなことでテンション下がる訳ねぇだろ」







なんて説得力がないんだろう。




そんな声で、そんな顔で、上手く笑えてないまま、嘘だと?


信用できるか。





――絶対に、強がってるじゃん…。









「上牧……」



「なんだよ!さっさとリビングに行こうぜ!いろいろ用意してるんだ!」



「上牧…おまえ」



「だから、なんだよ!ほら、早くリビングに…」



「……っ!」



「…んっ……!?」







苦笑いを浮かべて、リビングに行こうとする上牧の腕を、今度はあたしが掴んでキスをした。






目を瞑っているから分からないが、上牧は相当 驚いているだろう。


あたしからキスをしたのは、多分…初めてだ。












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