ウソ★スキ
ソラとは、少しずつだけど、いろんな話をするようになった。


──あれは再会したばかりの頃。

あたしがソラの事を『ソラ』って呼び捨てにすると、ソラはものすごく不思議そうな顔をしてあたしの顔をのぞき込んだ。

「もしかして、俺を知ってるの?」


「……そうだよ」

一瞬答えに迷いながらも、あたしは素直にそう答えた。


「でも、俺は全然覚えてないんだけど?」

「仕方ないよ、そんなに仲がいい訳じゃなかったから。あたしのことなんて忘れて当然!」


自分でそう言っておきながら苦しくなるなんて、馬鹿みたいだ。

泣きそうになるのを笑ってごまかそうとするあたしの横で、ソラは「そうか」ってホッとしたような表情を見せた。


……記憶の一部を失ってしまったこと。

ソラはそのことをしっかり自覚していて、今でもかなり気にしているという。

今では断念してしまったけれど、これまで治療に積極的だったのは旦那さんや奥さんではなく、ソラの方だった。


それを聞いていたから、あたしは余計本当のことが言えなかった。


『あたし、ソラの彼女だったんだよ? どうして忘れちゃったの?』

そんなソラを責めるようなこと、どうしても言えなくて。


「……俺はどう呼んでいたの?」

「『美夕』って、呼び捨て」

「だったらこれから、美夕って呼んでもいい? その時に戻ったつもりで」


あたしの苦悩にはちっとも気がつかないまま。


ソラはあの頃と同じ口調で、あたしを『美夕』と呼ぶようになった。

< 634 / 667 >

この作品をシェア

pagetop