何日か前、夕暮れ時にうつらうつらしていたら、けたたましいサイレンの音で叩き起こされた事が有った。

そう言えばそれから毎日のように、遠くに近くに消防車のサイレンを聞いていた気がする。あれは不審火だったんだ。


「嫌だなぁ。ニュー御殿は煉瓦で建てろってのか? さしずめ今の御殿は長男ブタが作った藁の家だけど」


 少しの風じゃあ吹き飛ばされはしないけれど、一度火が点いたら瞬く間に全焼だ。俺はもれなく焼豚ならぬ『焼きビト』になるが、多分美味しくは無いだろう。


「焼け死ぬなんてゴメンだ。俺は俺で見廻りをしよう」


 そう思い立った俺は空が暗くなると、火事を見付けた時の為にペットボトル満タンの水を汲み、見廻りを開始した。


「三塚さんにはお世話になってるから、こういう時にこそ恩返しをさせて貰わなきゃ」


 始めは自らへの火の粉を払う為に立ち上がった俺は「ひいては地域住民の為」と、随分大義名分が過分になり、1人無理矢理ヒーロー気取りの、そんな夜だった。


「あれ? 消防車のサイレンだ。またかなり近いぞ?」


 音のする方へ歩いて行くとそこは既に野次馬で溢れている。


「はいはい、危ないから下がって! ほらそこ! 危ないってのに!」


 三塚さんが軽くキレ気味で野次馬の整理に追われている。


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