「なんだか済みません、下らない話で。退屈されましたよね」


「いやぁ、そんな事ないよ! 30過ぎにはとても見えないし、訛ってもいないから驚いた。ハハッ」


 彼女はその小さい顔を伏せて恥ずかしそうにしている。


「それで? 弘二に遊ばれちゃったの?」


 遊ばれただけならまだしも弘二は、借金のカタに車が持って行かれるだの、連帯保証人に判を捺しただの、親の会社が倒産するだのと言って、彼女がキャリアと共に築いてきた貯蓄を全て吸い取った後、行方をくらませたんだという。


「それで……もうどうでも良くなっちゃって……」

「そっか。でも大分迷ってたよね。俺が最初に貴女を見掛けたのは、とてつもなく綺麗な夕焼けの日だった」

「ああ、憶えています。本当に綺麗でした。あの夕日を汚したくなくて、諦めたんです」

「そうだったの? その後も何度か見たんだけど、俺は昨日思い留まってくれたから、もう大丈夫だと思ったんだ」

「昨日……ああ、バイブに邪魔されたんです。田舎の叔母さんから急にメールが来て、驚いてしまって」


 なんだ。俺の超能力じゃなかったのか。

でも落ちた所が浅瀬じゃなくて良かった。あの高さからだったら普通は間違いなく死んでいる。


< 44 / 199 >

この作品をシェア

pagetop