図書館で会いましょう
「いいよ。じゃあ駅前に噴水あったでしょ?そこで待ってるね。」
「了解。ちょっとシャワーだけ浴びさせてね。」
「慌てなくていいよ。」
そう言って電話を切った。夕暮れになり陽も陰ると風が少しその温度を下げる。梅雨時の鬱陶しさを少しは忘れることができた。由美がゆっくり歩いていると町中は灯が付きはじめていく。今日はその時間の流れが少し幻想的に感じられた。昼間の世界から別世界に変わっていく瞬間をはじめて感じたような気がしていた。由美が駅前の噴水に着く頃には太陽はすっかり沈んでいた。
噴水の水しぶきが微かに由美の頬に当たる。その冷たさは心地好くも思えた。少し待っていると、
「由美ー!」
声のするほうを向くと真理子が小走りで手を振っている。由美は駅前で少し恥ずかしかったが真理子の姿を鏡で写すように手を振った。
「ごめんね。遅くなって。」
「いいよ。どこ行こっか?」
「取材先の人に美味しいって評判の洋食屋さん、教えてもらったの。そこに行こっか?」
由美は引っ越してきてからあまり外食をしていない。今日もどうしようか悩んでいただけに真理子の情報はありがたかった。由美は笑顔で首を縦に頷いた。
「じゃあ行こう。」
真理子は鞄の中からおそらく取材先からもらったのだろう、店の地図を取り出す。真理子の横にいた由美はその様子を伺っていると真理子の髪はシャンプーの匂いがした。

店は駅から歩いて5分程度の所にある。こんなのどかな町にこんなこ洒落た店があったのかと思うような店だった。都内にあっても繁盛しそうな外観に、
「良さげだね。」
と真理子がにんまりとした。
「うん。良さげだ。」
由美も返す。このやりとりは二人が新しく店を探してそれが良い感じだった時の定番だった。
店に入ると店内も変に明るくなく、かつ静かで落ち着いた雰囲気だった。店員も丁寧に案内してくれてこの時点で二人は満足している。二人は窓側のテーブルに案内された。メニューを見て適当に二人が食べたいものを選ぶ。数が多かったのだろうか、店員は少し驚いた表情をする。ただ真理子は取材、由美は展示会で相当お腹が空いているのが事実だった。
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