Two Strange InterestS

真面目なキッカケ

 思い出すのは、まだ、出会って間もない頃のエピソード。


「あー……終わったぁ」

 3時間ほどパソコンの前に張り付いていた彼女が、イヤホンを外してぽつりと呟いた。
 体をほぐすように椅子の上で背伸びをして肩をまわし、手元にあるペットボトルから水分補給。そして一度ため息。

「沢城さん?」

「あ、実はね、先ほどめでたくゲームをフルコンプしましたっ」

 俺が話しかけると、彼女はパソコン画面を指差してにやりと笑った。

「本当にありがとね、新谷君。こうやって入り浸ってプレイできたから、ゲームの世界に没頭できたよー」

 彼女曰く、寮でゲームをすると誰が尋ねてくるか分からないので、あまり集中できないらしい。そういう意味では彼女にとってこの環境ほどゲームプレイに適した空間はないのではないだろうか。
 何度も「ありがとう」を繰り返す彼女に、俺は慌てて言葉を紡いだ。

「いや、俺こそありがとう。おかげで読みたかったシリーズを買わずに読めたんだから」

 それは、彼女からの提案。俺の部屋にあるパソコンを貸す代わりに、自身のネットワークから入手したBL本を貸す――その交換条件に俺は何の躊躇いもなく頷いた。これは俺にとっても嬉しい誤算。だから、彼女がゲームをクリアしたことを聞いて、この関係が崩れてしまうかもしれないことが……少し、残念でもある。

 俺がそんなことを考えていると、彼女が何やら上目遣いで俺を見上げ、

「あ、あのね……新谷君……こ、このパソコンなんだけど、これからもちょくちょく使わせてもらったりしちゃ、ダメ?」

「え? そりゃあ別に構わないけど……」

 ここで断る理由はない。首を縦に振った瞬間、「やったぁ!」と笑顔の彼女が俺を見つめ、

「じゃあ、これからもBL本を横流しさせていただきますっ!」

 びしっと額の前に手をかざし、敬礼もどき。俺もつられて背筋を正しつつ、不意に、とある友人が脳裏をかすめた。
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