放浪カモメ
「ほんとに、正喜さんはダメな男です。」
「明美……ちゃん?」
佐野の啜り泣く声に和子は驚いた。
和子は佐野が泣いているのを見たことが無かった。
正喜の葬儀の時も、お墓参りに一緒に行った時だってそうだった。気丈に振る舞い肩を揺らしながらも涙を見せたことなどなかった。
「幽霊になって監視する、仏になって見守る。なんて言われたらいつも一緒にいる気がして、他の男性なんか探せるわけがないじゃないですか……」
佐野の弱い部分が垣間見えて、何故だか和子は少し嬉しくもあった、そしてくすり、と笑う。
「ほんとバカ息子なんだから、しょーがないねぇ。明美ちゃんもとんだ男を好きになっちゃったもんだね。」
「……はい。」
そう言って二人は笑う。
夏の日差しは温かくて、佐野はいつまでもこの日差しに包まれていたいと。そう思うのだった。
その後もしばらくたわいない話をして、二人は電話を切った。
外は肌も焼けるような猛暑で遠くの空が僅かに揺れた。
その遠くの空に正喜が居たような気がして佐野は空を何度も見上げたが、「バカだな」と呟いて写真を引き出しの中に、大事そうにしまった。