放浪カモメ
「こんにちは先生。」

研究室に入ってきた顔に佐野は少し驚いた。

「鴨居かぁ、久しぶりだなぁ……痩せた?」

いつも通りにタバコをふかせながら飄々とした態度をとる佐野。

「自転車旅でかなりしぼりましたね。はは。」

しゅっとしまった自分の頬をさすりながら鴨居はそう言った。

「そうだ、先生。最近あんまり杉宮先輩を見ないんですけど休学でもしてるんですか?」

鴨居の質問に佐野は驚愕を隠せなかった。

「先生?どうかしたんですか?」

ふぅ。とため息を吐くと佐野は吸っていたタバコを消して、改めて鴨居の方に向き直った。

「杉宮なら学校を辞めたよ。実家の宿屋の後を継ぐんだそうだ。」

さらっと良い除けた佐野に鴨居が当然のごとく噛み付いた。

「なんで!?いつ!?杉宮さんの意志なんですかそれは!?ねぇ先生!!」

叫ぶ鴨居を一睨みして佐野は制止させた。

「お前さんが旅立ってすぐだよ。やつの決めたことだ、納得していたにせよ納得していなかったにせよ、ヤツが出した答えなんだよ。」

そう言って佐野は再びタバコを取り出し火を点けた。

「なんでだよ。分かんないよ。どうして先生はそんなにも冷静でいられるんですか?オレには分からないよ!!」

そう言い残して鴨居は佐野の研究室から飛び出していった。

佐野は吸いはじめたばかりのタバコを消すと、どこを見るわけでもなく窓から外を眺めた。

「本当に不器用なやつらだよ、お前さん達は。」






澄み切った青空に一転の陰りが見えた。

それはその内に太陽を飲み込んで、大きな影を世界に写しだした。






< 221 / 328 >

この作品をシェア

pagetop