共鳴り

動き出した針

5月に入ってすぐのこと、耳に触れた台詞に驚いて、言葉も出なかった。


国光さんは誰かと電話しながら、ヤバいですね、ヤバいですね、と繰り返す。



「銀二、すぐにジルに電話して。
チャコールに明後日、強制捜査が入る、って。」


「……は?」


「宮内のおっちゃんが流してくれた情報だから、間違いはないよ。」


それだけ言い、また国光さんはどこかに電話を掛け始める。


“チャコール”ってのは、清人が任されているノミ屋やった。


そこで金貸したり、ケツ持ちしたりで、周到な嶋さんは何重にも架空会社を作り、組と関係のない店のように見せているんやけど。


そして、やからこそ、いつ切り捨てても良いアイツに任せとんねん。


宮内ってのは、うちの組と裏で繋がってる警察内部の人間やし、その情報に間違いはないんやろう、ゾッとした。


強制捜査で何も出なかったとしても、警察が諦めるとは思えへん。


ずっと前から内偵が入ってたんやろうし、清人のこともバレてるかもしれんのやから。



「銀二とジルと、あと何人かまわすから、チャコールの物全部移動させて。
俺はこれから嶋さんに会いに行くよ。」


ぺっ、とガムを捨て、珍しく国光さんは早口に言った。


違法な馬券の販売なんやから、いつかこうなることも予想してたけど、でも俺ら、従うしかなったんや。


絶対にパクられるわけにはいかんのやから。

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