共鳴り

触れた唇と

あれはまだ、理乃が高校最後の夏休みを迎えるちょっとだけ前やった。


俺の携帯を鳴らしたのは見知らぬ宅電の番号で、もちろんそれに見覚えはない。


首を傾げながら通話ボタンを押すと、告げられたのは学校名と、そして男の名前。


理乃の担任やってん。



「三者面談には何故来ていただけなかったのでしょう?
理乃さんは未だに進路希望も出してくれていませんし、一度保護者の方に学校に来て頂いて、改めてお話をさせていただきたく…」


三者面談?


進路希望やと?


そんな話は聞いてないけど、でも、俺だってちょっと考えればわかったことやのに。


理乃は3年やし、もう2学期も終わるんやから、そんなの当然なのに。


なのに俺、何で気付けなかったんやろう、って。



「…すいません。」


俺、こんなんで理乃の“保護者”って言ってたんかい、って。


確かにそれどころやなかったとはいえ、アイツのこと一番に考えてやらなあかんかったのに、って。


後日日を改めて伺うとだけ告げ、電話を切った。


考えてもみれば、理乃のなりたいものなんか俺は知らん。


それどころか大学に行きたいのかとか就職したいのかとか、それすら話し合ったことがなかったんや。


顔を合わせても必要最低限の会話しかしないし、何より理乃は目さえ合わせてくれない。


俺もあんま家に帰ってないけど、でも、そんなんは理由にならへんし。


頭を抱え、大きなため息を吐き出した。

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