共鳴り

希望

秋は深まり、窓の外へと移した視線の先には、寂しげな街路樹に赤や黄の葉が揺れている。


通りを歩く人々を見つめながら、やっぱり俺には喫茶店なんて似合わないな、って。


目を細め、カップに口をつけると、コーヒーの味が口いっぱいに広がった。


流れる音楽は、ジョン・レノン。


彼女の部屋でもないのに、まさかこんな場所で聴けるとは。


だから珍しく、俺はコーヒーなんてものを注文したのかもしれないけれど。



「待たせた?」


「いや、俺もちょっと前に来たから。」


コートを脱ぎ、目の前に腰掛ける人物の姿に、自然と笑みが零れる。



「珍しいやん、レイコさんが電話してくるなんて。」


あの日の電話を最後に、彼女とはずっと連絡がつかなかった。


さすがに心配してたけど、先ほど、いきなり電話が掛かってきて、こんな場所に呼び出されたのだ。


数名しか居ない店内の客は、それでもやっぱり彼女を振り返り見る。


店への送迎以外で外で会うことなんてなかったけど、どこで見ても綺麗な人。



「レイコさんがこういう店に来るなんて思えへんかった。」


「あぁ、あたしこの店のマスターから輸入した豆を買ってるの。
それに、昔からお世話になってたからね。」


ふうん、と俺は言う。


どうりでレイコさんが淹れてくれるコーヒーと同じ味なわけや、って。


多分、ジョン・レノンもマスターの影響やろうけど、やっぱり珍しいとしか思えない。


この人が、誰かに影響を受けるなんてことがあったなんて、って。



「嶋さんもここの常連なのよ。」

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