メランコリック症候群
「変わったって、どんな風に?」

街灯が小さく無機質な音をたてる。美月の鈴の音が美しいリズムを刻む。

「笑う回数も増えたし、優しく笑ってくれるようになった。ちょっと前までの高橋君は、目が笑っていなかった感じだったけど、今は目が優しい色を増したというか。うん、そんな感じかも」

「……へぇ」

こんなにも早く効果が出るとは思っていなかった。半信半疑ではあったけれど、バカみたいに律儀に鏡の前で笑う練習もしたし、毎日目標を書いて胸ポケットに入れた。たったそれだけなのに。

「ま、高橋君は由香里ちゃんの力なんて借りなくても、元々凄く優しいんですけどね」

満面の笑みでそう言われて、何も返せなくなる。痛く感じるほどに笑顔が眩しい。白石が言っていた、初対面の人にも好印象を持ってもらえる笑顔とは、きっとこんな感じなんだろうなとぼんやり考えた。

「えっとね、家此処だから」

肯定するのか、否定するのか。彼女の発言に対する応えを悶々と考えているうちに家に着いたらしく、美月にカッターシャツの襟を引っ張られた。顔を上げると、確かに美月と書かれた表札が目に入る。

「あぁ、着いたのか。結構遠いんだな。自転車にした方が良いんじゃないか?」

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