紅血のマリア
第1話
『そろそろヒット作書いてもらわないと……』

「わかってますよ」

『本出すだけじゃダメなんだよ?ヒットさせてもらわないと……』

「いつだってそのつもりですけど」



ガタン!ガタン!



 舗装されていない山道を俺は携帯片手にオンボロの車を走らせる。

うるさい担当編集者の小言をBGMにね。

俺はノンフィクション作家の香月尚人(かづきなおと)。

事実に基づいた作品を世に送り出している。

もっとも、売れたのは最初の1冊だけ。

後は鳴かず飛ばずで、こうして担当からぶちぶち言われる毎日だ。



『大体今どこにいるの』

「山」

『山?!ハイキングでもしてんの?!』



あからさまに嫌みな口調で声を荒げる。

そんなに大声出さなくても聞こえてるって。



「違いますよ、取材です。取材」

『取材って何の?』

「吸血鬼です」




『……』




沈黙。




まぁ、そうだろうね。




「今ネットで噂になってるんですよ。山奥に吸血鬼が住んでる洋館があるって」

『あのさぁ、そんなの信じてたらキリないよ?』

「これは信憑性ありますから。ヒットさせるなら話題性のある題材がいいじゃないですか」




そう言いながら俺は空に目をやった。

木々の隙間から見える空は灰色を通り越して真っ黒だった。

これは一雨来そうだな……。




担当は呆れながらも俺への小言を続けた。

俺もそのBGMを消さなかった。



ザー……。



雨はすぐに降り出した。

こんな山奥で、道もなく、雨も降って、辺りは暗く視界も悪かった。




いい雰囲気じゃないか。



俺は何か確信めいた物を感じて笑みをこぼした。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop