たんぽぽ
 見覚えのある未登録のメールアドレスからのメールだった。昔から変わらない春華らしいメールだった。少し期待をしていたものの、まさかこんなにすぐに返事が返ってくるとは思ってなかった僕は面食らったがなにごともなかったかのようにメールを返す。こういうときメールとは便利なものだと思う。

「元気元気♪もうテストだろ?相変わらず忙しくやってんのか?(^^;)」

 このときから三度、僕達の時間が動き出すことになるとは僕には想像もつかなかった。

     *

 春華との出会いは、僕がまだ中学生のときだ。中学三年生のときのクラス替えで初めて春華と同じクラスになった。それまで、お互い存在は知っていただろうが話したことはなかった。僕が春華を意識し始めたのは二学期に入ってからである。

 新学期になり僕のクラスは席替えをした。僕は教室のちょうど真ん中あたりの席になった。そして、僕の右隣が春華だった。
 
 初めて話したのは、席替えのあったその日の古典の授業中だった。僕は英語と国語が苦手で、古典の授業をまともに受けられるわけもなく、先生の話も聞かないで僕は退屈を持て余していた。そもそも国語なら将来、多少使うこともあるかもしれないが古典など使うわけもないと思っていたので授業に身が入らないのも当たり前だった。僕は机の上に左肘をつき上半身をあずけ、右手で消しゴムを転がしながら放心していた。当然、教室のど真ん中でそんな態度をとっている僕を先生が見逃すはずもなかった。

「高嶺ッッッ!」

 不意をつかれた僕は我に返り、さっと体を起こした。その反動で先ほどまで触っていた消しゴムが右のほうに転がっていった。先生は構わず続ける。

「授業を聞かなくてもわかるくらい君は頭がよかったのかな?ではこの文を口語訳してみなさい!」

 先生は意地悪な目をし、口元をにやつかせて僕の教科書を指さしながら言った。僕は一応、教科書に目を落とした。

『これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に二度面を向かふべからず。』

 僕は、これを射損ずるもの…まで心の中で読んで、諦めた。

「わかりません…」
< 2 / 70 >

この作品をシェア

pagetop