転んだら死神が微笑んだ
明るい陽の光の下、黒いワンピースを身にまとって、わたしは立っていた。

まわりには同じように黒い服を着た人たちが、ゆっくりゆっくりと動いていた。


わたしはあれから車に乗って、お母さんの田舎に来ていた。

おじいちゃんたちの家の近くにあるお寺で、お母さんのお葬式が行われていた。

親戚や知り合い、昔から付き合いのある近所の人たちでいっぱいだった。

わたしが見上げる人たちはみんな、ほとんど涙を流していた。

わたしはぼんやりとそれを無表情でながめていた。


自分の気持ちがわからなかった。


悲しくないわけはない。


お母さんが死んだという事実は、まわりを見ればイヤでもわかる。

それでも、何かぽっかりと穴があいていて…。

お母さんが存在(い)たという現実は、いつの間にか意識から遠のいていた。

あるはずの感覚が無意識のうちになくなっていたんだ。

だから…、わたしは、泣くことができなかった。

そんなわたしを、前の方から女の人が歩み寄ってきて抱いてくれた。

ほのかに香る独特のこの匂い。


おんなじ匂いだ。

今わたしが抱かれているこの匂いと、同じ匂いがする。

女の人「よくここまで、大きく成長することができたわね…。本当に…、本当によかった。」

記憶が…、あの時の記憶が今わたしにつぎつぎと体に入り込むように戻ってきた。

今までわたしの頭の中でスライドショーのようにぐるぐると流れていた嘘っぽい形の記憶なんかではなく、ちゃんと実感することができる。

あかり「…ぐすっ。」



涙が流れてきた。



わたしは泣いていた。

あの時のあの場所で、お母さんのお葬式の行なわれている中で、わたしは泣いていた。
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