イジワルな恋人


ボソッとつまらなそうに言って、また歩き出した桜木先輩の背中を、あたしはぼーっとしながら眺めていた。

気になったって……。

っていうか、あたしなんかの退学の心配より、自分の心配した方が……。


校内でのケンカだって、騒ぎになれば停学とかになるのに。

キャバクラに入り込んでケンカしたなんて……厳しい処分が下されるに決まってる。

……なのに?


「……」


……もしかしたら、あたしが思ってるより悪い人じゃないのかも。

噂だって、本当かどうかなんて分からないし、人の間を流れていく言葉がいい加減な事は、あたしもよく知ってる。

男なんて嫌いだけど……。

だけど―――……。


止まっていた足を走らせて、桜木先輩の前を塞ぐ。

そして、桜木先輩を見上げて、鞄の中に入れてあった絆創膏を差し出した。


「キズ、ごめんなさい。

……―――ありがとうございました」



笑顔を向けると、桜木先輩は少し黙って。


だけど、ゆっくり伸ばした手で、あたしの手から絆創膏を抜き取った。




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