イジワルな恋人


亮と出逢う前の自分がどう過ごしていたのか、思い出すことも出来なかった。

亮がいる日常が、当たり前になってたから。


帰り際、中澤先輩に声をかけられた。


「桜木とうまくいってないの?」


顔を合わせて一言目に出た言葉に、動揺して目を逸らす。


「そんな事ないです」

「そう? なんか暗い顔してたから」


先輩の優しい笑顔につられるように、戸惑いながら理由を説明する。


「亮……今勉強頑張ってるんです。

だからあまり会えなくて……、でも大丈夫です」


無理矢理作った笑顔を向けると、先輩が短いため息をつく。そして呆れたように笑った。


「全然大丈夫には見えないけど? 

会いたいなら会いにいけよ。……桜木だってきっと同じ気持ちだと思うけど?」

「……でも亮は寂しいとか何も言わないし。そんな事思うのかもよく分からないし」

「あいつが言うわけないだろ。しかも好きな女ならなおさら弱音なんか吐かないだろ」


……そういえば、亮も確かそんな事言ってたけど。


「校門に桜木の車止まってたよ。水谷待ってるんじゃないのか?」

「え……っ」


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