お大事にしてください
突然だった。
目の前に店が見える。
「えっ、こんな所に店ってあった?」
はじめ蜃気楼かと思った。見えないものが見え、暑さにやられたのかと思った。
薬と書いてあるのぼりが風に揺れ、伊織の頬を撫でる。
「ホントにある・・・んだよね?」
感覚は現実のものだ。でも、さっきまでこの古びた店は、伊織の目には見えなかった。感覚のズレが伊織を混乱させた。
手でのぼりに触れ、何度もその感触を確かめた。
やわらかい。布のざらつきもはっきりわかる。
「本物だ・・・。」
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