お大事にしてください
痛み止め10
明日は文化祭本番だ。自宅に帰ってからも、準備に余念がなかった。
「あぁ、緊張するなぁ。」
台本をめくりながら、何度も台詞を確認する。同じ台詞を、何度繰り返したかわからない。それでも不安が頭を過ぎる。
「本当に大丈夫かなぁ?」
こんな風に煮詰まった時、幸は決まってする事がある。それはアイスを食べる事だ。時計の針はとっくに十二時を回っている。それでも台所に、幸は向かった。
さすがに秋になると、冷凍庫の冷気がいささか強く感じる。でも、それとアイスは別だ。箱の中から、ストロベリー味の小さなアイスを取り出すと、いつものように口にくわえた。
「うーん、この味、最高。」
思わず声が漏れた。
「こら、幸。何してるの。」
背後から、母親の声が聞こえた。
「あ、ん、お母さん・・・。」
アイスのかけらが喉に詰まる。そして、ゆっくり溶けていくのがわかる。
「またぁ、アイスばかり食べて。そんなアイスばかり食べているとお腹壊すわよ。さっきも食べてたじゃない。」
そう言いながら、母親は冷蔵庫から麦茶を取り出した。それを見て、親子だなと幸は笑った。
「お母さんだって、似たようなものじゃない。さっきも麦茶飲んでたよね。」
「麦茶はいいのよ。体にいいんだから。」
母親は二言目には「体にいい」と言う。どうもテレビ番組の影響を受けているらしいのだが、その事を追求すると必死に否定する。いったいどんな番組を視ているのだろうと、幸は気になっていた。
「そう、体にいいのね。」
鼻で笑いながら、自分の部屋に戻った。
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