お大事にしてください
目覚める3
昨夜もよく眠れなかった。
「部長、おはようございます。」
部下のひとりである近藤が声をかけてきた。近藤は課長補佐をしている。年齢は四十はじめだから、まだまだ働き盛りだ。六郎は、近藤をうらやましく思った。
「近藤君、今日も元気だね。」
「はい、最近マンションも買いましたしね。これから家族のために、一生懸命働かないと・・・ローン返せませんから。」
話では、近藤は大学時代ラグビーをしていたらしい。筋骨隆々と言った体つきに、褐色の肌。笑った時の白い歯が眩しかった。
(私にもこんな時があったな・・・。)
朝から、少し寂しい気持ちになった。
「そうか、がんばれよ。」
「部長、どうかしたんですか?」
六郎の様子がおかしい事に、近藤も気がついたらしい。
「ん?何か変か?」
何が悪いのか、六郎はわかっていた。わかっていて、わざととぼけて見せた。
「いや、何か元気がないじゃないですか?いつもなら、冗談の一つも交えながら返事してくれるのに。部長らしくないですよ。」
「そ、そうだったか。」
頭が回転しない。気の利いた返事が浮かんでこない。
「ほら、今もそう。絶対に変ですって。」
近藤は六郎の事を指さした。その手をどけ、六郎は会社へと向かった。
「ほらっ、こんな所で油売っている場合じゃないぞ。早くいかないと遅刻だ。」
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