お大事にしてください
目覚める7
「ただいま。」
いつもと同じように言ったつもりだった。しかし、薬を手に入れた喜びは隠しきれなかった。心なしか声が弾んでいたようだ。
「あら、どうしたの?やけに機嫌がいいんじゃない?何かあったの?」
「いや、何もないが。」
悟られないよう、慎重に答えた。
「そうですか?今朝の様子からは信じられないくらいに、気分良さそうですけどね。」
「でも、本当に何もないんだよ。」
さすが何十年と連れ添ってきただけの事はあるな、六郎は感心した。そして、もうひとつ感心した事がある。それは薬を手に入れたと言うだけで感じる高揚感。心理的効果だ。いかに自分が悩んでいたのかを痛感する。
「ならいいですけど。何にしても私は、今のようなあなたの方が好きですよ。」
「そ、そっか。」
久しぶりに好きと言われ、六郎は素直に照れた。その表情を確認し、妻はキッチンの方へと行ってしまった。
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