お大事にしてください
冗談ではない。
もう、六郎の頭はいっぱいだ。
(おしっこ、おしっこ、おしっこ・・・。)
それだけだ。でも、どうする事も出来ない。
(おしっこ、おしっこ、おしっこ・・・。)
まさかこの歳になって、おしっこと言う単語で頭の中がいっぱいになるとは思いもしなかった。おしっこの悩み。言葉にすると、滑稽に聞こえるかもしれないが、六郎にとっては重大な問題だ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
呼吸をするわずかな振動もつらくなった。
(だ、だめだ・・・。も、漏れる・・・。)
このいい流れの商談を遮ってトイレに行くのか、それともこのまま耐え続けるのか、選択を迫られていた。しかし、このまま耐えるという事は、すなわち漏らすと言う事と同義だ。そうなれば、商談の流れを遮るどころの騒ぎではないだろう。
「す、すいません。」
六郎はそれだけ言うと、トイレに駆け込んだ。
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