お大事にしてください
目覚める13
六郎は過去の経験から、会議だとか、商談だとかそう言った類の重要な場に向かう前には、必ずトイレに行くようにしていた。でないと不安なのだ。不安でトイレに行きたくなってしまう。
しかし、近藤はそれをさせてくれそうにない。会議の準備をしてまで、自分の所に来たのだから、時間がないと言う事だ。そうなるのも当然だろう。
(ト、トイレに行かないと・・・。)
それを口に出来たらどんなに楽だろう。普段格好をつけている自分が恨めしく思える。焦りでスーツのポケットに手を突っ込んだ。薬だ。薬のパッケージが入っている。効果はまだわからないが、一日食後に三回飲むようにとあったので、それに従うようにしていた。昼食を食べた後もきちんと飲んだばかりだ。
「ちょっと、薬、薬だけ飲ませてくれないか?」
「あ、それくらいなら大丈夫ですけど・・・早くして下さいね。」
慌てて一錠取りだし、水も何も飲まず、薬だけを飲み込んだ。
「ぐはっ。」
軽くむせた。
「部長、何やっているんですか?はい、水。」
会議の時に飲もうと思っていたのだろう、近藤は手に持ったペットボトルを六郎に渡そうとした。
「いや、大丈夫だ。」
これからしばらくはトイレに行けない。これ以上水分を取ったら、不安要素がさらに大きくなってしまう。六郎は断った。
< 74 / 182 >

この作品をシェア

pagetop