お大事にしてください
その時、隣に座っている男達の会話が聞こえた。その男達もやはり自分と同じくらいの歳に見えた。
「それでよ、かかあに怒られた訳よ。」
同い年と言っても、格好はまるで似ていない。男達は油で汚れた作業着、そしてタオルを首からぶら下げている。六郎の洒落た格好はここではかなり浮いている。
「なんで、怒られたわけさ。」
椅子に片足を持ち上げ、焼き鳥の串をしゃぶっている男が聞いた。
「やっちゃったんだよ。」
「・・・やっちゃった?何を?」
「あれだよ、あれ。寝小便。飲み過ぎちゃってなぁ。」
「やだよ、たっつあん。いい歳こいて。」
男達は笑い飛ばしている。
六郎には、それが信じられなかった。
(ね、寝小便?どう見ても同い年くらいだぞ。それが寝小便なんて、それもこんなに大声であり得ない・・・。)
男達の話はまだ続いていた。
「でもよ、この間さぁ、金ちゃんにも聞いたのよ。金ちゃんも、年がら年中寝小便してるってよ。やっぱあれだな、歳とると、色々緩くなっていけねえやな。」
「はは・・・。違いねぇ。じゃ、今日はたっつあん、オムツでもして寝るこったな。」
「そうだな。そうすっか。」
また、笑い飛ばしている。
(オムツ。オムツなんて絶対にしたくない。したくない。したくない。)
男達の言葉を聞く度に、ズキンと胃が痛む。もし自分がそうなったらと思うと、気が気でないのだ。
「ビール、もう一杯。」
胃の痛みを消すためなのか、全てを忘れさろうとするためなのかわからない。六郎は浴びるほどビールを飲んでいた。
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