【短編集】時空郵便



流れゆく景色は儚くて人はそれを形に残したがる。

レンズ越しの虚像はただ無機質に、その刹那を流れる時間から切り取ってしまう。


私はカメラと言うものが好きじゃない。

だけど瞳に焼き付けただけでは景色は、思い出は、感情はすぐに劣化してしまうもの……

だから私はありのままをこの手で描こうと思う。


「ネネ。待っていてね」

私はまたあの公園を訪れた。

あの日の様にベンチに座り、記憶という名の被写体を懸命に写生する。

カメラと絵画の違いはただ一つだと私は気付いた。

絵画だって感情が籠もらなければ無機質になってしまう。

どちらにも溢れる色彩があり、ほとばしる感情は必ず現れる。

違いはただ一つ。

あの時のネネの笑顔。約束のカメラでは撮れないけれど――

こうしてネネを思って、ネネとの時間を思い出しながら私は描くから――

だから

「遅くなっちゃってゴメンね。記憶なんて色褪せちゃったけど、写真だって色褪せていくもの……たからゴメンね。でも今はこれでお姉ちゃん約束破らなくて済んだよね?」

流れる記憶からネネの笑顔という刹那を切り取り私は絵を描いた。

儚くてどこか愛しくて、真ん丸で白いアナタの笑顔。

例えこの絵が色褪せても私は忘れない。

そしてまたアナタを描くから。

いつまででも、いつまででもずっと――

これから先だってずっと――





そしたら私

あなたの中の優しいお姉ちゃんで居られるよね?





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