【短編集】時空郵便

若干30歳にして監督デビューを果たし、前衛的な視点で切り込むその作品が評価された。

三作目となる今回の『fortune letter~時空を越える手紙~』では、今話題の実力派女優と俳優を起用したことでも世間の注目となっていた。

「はい、オッケーです。

じゃあ、今日の撮影はこれで終了になります。お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

「お疲れさまです」

野崎の言葉にスタッフや演者が応える。

野崎は撮影機材を回収している横で、入念な映像のチェックをしている。

「うん、冬也くんも咲ちゃんも役に入り込んでる。色んな監督が惚れ込むのも頷けるな」

ファッションモデルとしてデビューし、その後ドラマに出演。

その演技力の高さが評価され、今では連続ドラマの主演も勤める大野 冬也。

サッキーの愛称でCMやバラエティーにも多く出演する人気女優である相田 咲。

野崎が予てよりこの作品で起用したいと考えていた二人の迫真の演技に、手応えを感じていた。

「今回も良い出来だ。山谷くん。山谷くーん?」

助監督の山谷を呼ぶが返事がなかった。

「あれ?山谷くん居ないの?

なんだ、誰もいないのか」

スタジオには誰一人いなかった。

今まで撮影をしていたスタジオに一人も居ないというのは不思議な感覚で、野崎は困惑した。

すると。

「どーもー。安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ。時空郵便の者でーす」

突然に目の前にその男が現れた。

深緑の制服の郵便配達人。

「な、なんだ君は。

ここは関係者以外は立ち入り禁止だ。出ていきなさい」

野崎の言葉に男は不敵に微笑む。


「野崎さん。あなたは過去や未来の自分に手紙を出したいとは思いませんか?」

「過去や未来の自分に手紙を…………だと?」



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