影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
悲鳴も、呪詛もなく。

深い谷底へと消える甲斐様。

「フン」

その姿を一瞥もせず、初代は谷に背を向ける。

「さぁ百合。次はお前の…」

何か言い掛けたようだったが、私の耳には既に届かない。

右手には甲斐様より授かった苦無。

その苦無を握り締めて走り出て。

「むっ!?」

身構える初代。

その脇を走り抜け。

< 109 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop