影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
部屋の外は既に光秀めの兵で溢れ返っていた。

明智軍一万三千。

それに対してわしの護衛でこの本能寺に詰めている兵は僅か数百。

数の上では比較にすらならぬ。

ふと、伊賀の里を攻めた時もこんな状況であったと思い出した。

もっとも数ではこちらが上だったが。

弓を持ち、表で兵卒どもを射抜く。

前線で戦うのは久し振りだ。

まだ己の強弓が健在だと知り、こんな時ながら笑みが浮かぶ。

一人、また一人と急所を射られて倒れる兵卒ども。

しかし。

「む」

弓の弦が切れた。

「蘭丸!」

背後でわしの背中を守る蘭丸を呼び、槍を受け取った。

弦の切れた弓は捨てる。

どの道矢も尽き掛けていた。

使えぬ弓になど未練はない。

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