影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
寺内部に入ってからが本番だった。

火の手は相当強くなっている。

崩れ落ちる瓦礫、飛び散る火の粉。

事前に装束を着たまま堀に飛び込み、ずぶ濡れになっておく事で、ある程度の火は防げた。

が、この火勢はその程度で完全に防げるものではない。

迅速に任務を果たさねば、私もこの本能寺で黒焦げの死体になってしまう恐れがあった。

素早く信長の所在を探り、その命を絶ち、速やかに脱出する。

それが私の任務。

歴史の影に埋もれるであろう、織田信長暗殺という大業だった。


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