影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「隠密といえども所詮は人の子。その結束が弱まる事とてありまする。そしてその機に乗じて彼奴らを一網打尽にするならば、今が絶好の好機かと」

「……」

信雄は肘掛けにもたれかかりつつ、思案する。

果たしてこの男の言を鵜呑みにしていいものか。

こやつもまた、同じ隠密の出と聞く。

騙し、謀り、惑わす事を得手とした隠密。

如何に武将といえど、信雄を術中にはめる事など造作もなかろうが…。

しかし信雄もまた、功を焦って冷静な判断の出来ぬ愚か者には違いなかった。

「うむ、お主の話はしかと聞き遂げた。手筈を整え、近々進軍すると致そう。下がってよい」

「は…信雄殿のご武運をお祈り致しております」

男はまた、慇懃な態度で頭を下げた。

信雄には見えぬその顔には、邪悪な笑いを湛えながら…。




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