影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
『織田信長配下の北畠信雄の軍が不穏な動きを見せている』

そんな情報が頭領の部下の忍からもたらされたのは、年が明けて間もない時期の事だった。

北畠は過去に放棄した丸山城という伊賀の里に程近い城を突如として修復し始めたのだ。

戦略上の要衝としては利用価値がない為に放棄された城を、何故この時期になって修繕し始めたのか。

頭領はある結論を導き出した。

北畠は、伊賀忍軍の拠点である伊賀の里を攻略しようと考えているのではないかと。

確かに、忍とは大名にとって厄介な存在だ。

侍や武士のように正面切って戦いを挑む者とは違い、深夜や暗闇に乗じて音もなく敵地深くに潜入し、重要な情報、下手をすれば武将の命そのものを奪い去っていく。

その存在は同じ忍術に長けた者でなければ未然に防ぐ事は難しい。

そう考えると、隠密の中でも最大勢力である伊賀忍軍は脅威と考えるのも無理はない。

しかし。

何故今この時期に、北畠が伊賀の里に攻め入ろうとするのか。

その点には疑問が残る。

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