影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
この砦に篭城したのは生き残りの伊賀隠密と、戦う力を持たない女子供。

当然大した蓄えもなく、備蓄の続く限り、最後の抵抗を試みようという場当たり的な戦術だった。

信長もその事はとうに見抜いている。

散発的な攻めしか行わないものの、それだけでも十分こちらを疲弊させる事ができるのを読んでいた。

事実、伊賀忍軍は悪戯に戦力と備蓄を消費し、白旗を振るか、飢え死にするかのどちらかしかないという状態だった。

それでも、非戦闘員は残る兵糧を、私達隠密に譲ってくれた。

文字通り腹が減っては戦は出来ぬ。

守られるしかできない私達よりも、あなた達が食糧は優先すればいいと。

幼子までもがそう言って、自分の食糧を私に譲ってくれるのだ。

…たまらなかった。

ここまでしてくれるのに、信長の軍を蹴散らす事ができない己の無力さ。

歯噛みするしかなかった。


< 82 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop