ひとりごち~足跡帳~
海中から突然、私の視界に闖入してきた長いロープ。

薄いブルーと濃いブラックのツートンカラー。

ボーダー柄のそのロープと目線が鉢合わせしました。

向こうもびびったらしく垂直方向へ上昇してゆきます。

沖縄初の生命体です。魚ではないようですがこの際ゼイタクは言ってられません。

ロープを追っ掛け甲板へと私たちも上昇です。

甲板には湿った風が流れ潮の香りが爽やかでした。

ロープはひょこりと顔を海面に覗かせ、すぐに海中へ潜ってゆきました。


「あれ、ウミヘビだよね〜」

沖縄らしい生き物にはしゃぐ私たち。

「ちょっとすみません」

私たちのノウテンキな声を聞き付け、係員の兄さん(推定ハタチ)が私たちのほうにやってきました。

旅先でアバンチュール?

きゃ、どうしましょ!
誰目当てよ、と女同士の駆け引きが始まろうかというその時、兄さんは私たちを船室へといざないました。

何、全員まとめてOKってこと?いやいやそれは女としての自尊心が、と私が先走っていたところ、兄さんはおもむろに分厚い本を取り出しました。

「この中のどれかを見たんですか?」

指し示す「海蛇」のページ。

「あ、これです〜」

普段より1オクターブ高めの声で先程のロープと思われる絵を指さしました。

「間違いありませんか」

精悍な兄さんの眼差しに胸きゅんです。

兄さんは急に立ち上がると船室の壁の電話をとりました。

今日のランチの予約?
水着着替えたほうが・・

妄想入りかけている私たちを横目に電話がつながったようです。
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