ノースマイル

俺の目に飛び込んできたのは、雪の部屋の前で話す雪と見知らぬ男の姿。


雪はいつも一つ結いにしている髪を下ろし、部屋着らしいワンピースを着ている。

男はがたいがよく、少し太めだ。


雨音が邪魔して会話の内容まではわからないが、男は楽しそうに笑っている。




そして、雪も笑っていた。



接客スマイルとは違う。
少し力の抜けた笑い顔。



『素顔』



そんな単語が頭に浮かんだ。





男は雪を抱きしめると、顔を近付けた。


雪はふっと顔をそむけ、苦笑い。


つられて男も苦笑い。
そして雪を放すと、傘を開いて雨の中を歩きだした。


雪はその後ろ姿にほんの数秒間、手を振っていた。





俺は手の中のピアスを強く握りしめた。

痛みが走る。



この気持ちは、何だろう。
新しいオモチャを早々に壊してしまった気分だ。



< 16 / 18 >

この作品をシェア

pagetop