【短編】お願い、ヴァンパイア様
 耳を甘く溶かすような、男の声。

翔くんに恋しているのに、錯覚しそうな自分に気づく。


「お前は失敗した。……だから俺がここにいる」


 キッと睨んできた男は、魔術書を持ってわたしに近づいてきた。


 ど、どどど、どうしよう~っ!

わたしはパニック状態で、ぽろぽろと涙が溢れていた。



 失敗?
…ううん、それよりも理解の範疇を超えた出来事を受け入れられていない。


 ただ無言で涙するわたしに、はあ、と深いため息をつくだけだ。

端正な顔立ちを朝日が透かして、本当にキレイすぎて…また泣けてくる。




「泣くな。人間の涙には……弱いんだ」


 そういって、男はわたしの肩をそっと掴む。


 怖いというよりも、わからないという不安がいっぱいで、成す術がなかった。

そしてそっと首筋に近づく吐息に、ごくりとつばを飲み込んだ。



 キュっと、歯を食いしばると同時に、男の唇が触れた首筋から痺れだす。



「……ぁ…っ」


 クラリと快感にも似た感覚は、あの入学式の日に似ていた。



 それが一瞬なのか、はたまた数時間なのかはわからない。

しかし、ぼーっとする脳内に響く甘い声は、静かに鳴り響く。





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